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人生は冥土までの暇潰し
亀さんは政治や歴史を主テーマにしたブログを開設しているんだけど、面白くないのか読んでくれる地元の親戚や知人はゼロ。そこで、身近な話題を主テーマに、熊さん八っつぁん的なブログを開設してみた…。
東光ばさら対談 瀬戸内寂聴
夕べ、寝酒を飲んでいたら、枕元に『東光ばさら対談』があったので読み始めた。ン十年ぶりに読んでみると、面白いのなんのって……。この本は絶版になっているが、このまま埋もれさせるには惜しい本だなぁ…。そこで、OCRソフトに読み込ませてみた。念入りにチェックしているわけではないので、OCRミスがあったらゴメン!

今後、気が向いたら今東光和尚を中心とする、野良犬会の対談を紹介したいと思う。今回は和尚と過日紹介した瀬戸内寂聴さんの対談だ。寂聴さんが得度する前の対談なので、非常に興味深い対談になっている。反原発運動に余生を懸けるという寂聴さんの姿勢に共鳴している亀さんにとって、昨夜は宝物を発見したような気分になった。

ところで、『最後の極道辻説法』では、自殺なんか考えたことはないと和尚は語っていたが、この対談を読むと本当は一時自殺を考えたこともあったと語っている。その行を読み、今まで以上に和尚に親近感を持った。

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里見弴の書がある芸者の長襦袢
瀬戸内 今夜、先生にお会いするといったら、円地(文子)さんがくれぐれもよろしくとのことでした。好きなのかな?
今 だれが……?
瀬戸内 円地さんが先生を。
今 円地さんは片岡鉄兵じゃないの。
瀬戸内 だって先生、こないだ円地さんを口説いたってお話じゃありませんか。
今 いや、口説かない。あれはいい子だから。彼女の兄貴がバカな野郎でな、おれは面と向かってそういってんだから。文部省にいたんだが、もう定年で辞めたそうだ。上田万年の息子にしちゃ頼りねえヤツだ。慶応の文科にいてな、友達が小説書くといったらまねして「おれも書く」というんだ。
「ドイツ語と角帯」なんて題で書いてね。南部修太郎さんが「なんだ、これは」ってな、読んでもくれなかった。その話をしたら、上田女史(円地文子氏)がゲラゲラ笑っちゃってね。
瀬戸内 上田女史っておっしゃるんだから(笑い)。
今 「この子、この子」なんだから、おれは。
瀬戸内 その「この子この子」のころの先生のお写真、すてきですね。ヒゲなんか生やして。どうして昔の美男子がこんなに変わるのかしら(笑い)。
今 いやすてきじゃないよ。ちょっとにやけてるだろう。あのにやけてるとこが、おれの手でな、あの野郎、にやけてるから女たらしに違いねえって、ケンカ吹っかけられる。そこでおれが相手をはり倒しちゃうんだよ。そうすッと、向こうはびっくりする。
瀬戸内 高知でやったじゃないですか、キャバレーで。どうなることかと思った。
今 ああ、あれか。相手が二人いてな。「瀬戸内さん!!」ていったら、向こうの席にいた女が来たんだよな。そしたらその女の客の野郎がヤキモチやきゃアがってね、「ここは河内とちがう」とかなんとかいうから「ナニいってやがンだ、バカヤロウ! てめえの片目潰してやろうか」ってんでケンカおっばじめた。そうしたらね、面白いね、最近の裁判でケンカして片目潰したのが、罰金五百万円ですんじゃったの。だからおれは、これから「五百万円払ってやるから、片目潰してやろか」っていおうと思うの(笑い)。安いもんじゃないか。五百万円ならね。
瀬戸内 その晩でしたね、先生がヒスっておられてどうしようもないから、神経をなだめるためにね、私が長襦袢に字を書いてもらったの、「恋の重荷」と。それは、うちの宝ですよ。染め屋に出して蒸すと、その字が定着するんです。それを着て、里見弴先生が見えたときに、上七軒へ遊びに行きました。そのとき、私が着物の裾をパッとめくってそれを見せたら、芸者さんがみんな、ずらりと並んでその場に寝ましてね、「先生、うちにも書いてえな」って。もう里見先生が喜んでおしまいになって。
今 里見さんは字が達者だからね。
瀬戸内 ええ、みんな書いてしまわれました。
今 里見さんはいくつになったんだ。
瀬戸内 もう八十いくつ……とてもお元気ですよ。そのあと上七軒へ、今度は(水上)勉さんが、森雅之さんと遊びに行ったんですって。それで芸者さんが里見先生から書いてもらった長襦袢をまくって見せたら、勉さんが十万円で譲ってくれ。その芸者さんが、十万円もするのかと思ってびっくりして「いやだ」といったら、「二十万円で売ってくれ」、「いやだ」1だんだん値上げして五十万円」、「いやだ」。そんなに高いものたらますます売らない(笑い)。
今 それは下手だよね。
瀬戸内 また里見先生と行ったら、芸者さんがもう夢中になって「ここも書いてちょうだい。ここにもお願い」って、新しい紬の着物の袖に書いてもらったんです。おかみさんが、使えなくなるって心配するので、私が「大丈夫、その上に羽織を着て出なさい。それをパッと脱げば、里見先生の字が出るから」といったんです。こんどは六十万、七十万とせりあがって、百万になるかもしれない。
今 里見弴と、バカに仲がいいんだね。いまも京都のあなたの所へよく行くの?
瀬戸内 京都へいらしたら、電話かけてくださる。
今 アレッ。
瀬戸内 先生とおンなじ。すぐ私の手を握って歩くの。
今 恋がたきができた(笑い)。
瀬戸内 年寄りに好かれちゃうんだなあ。先生、このごろ、どのへんでお遊びですか?
今 いやいや、遊ばないの。
瀬戸内 カワイコちゃんは?
今 カワイコちゃんはもう遠ざけてね。
瀬戸内 そんな情けないことを! きょう先生とお目にかかってもう三十分ぐらいになるでしょう。それでちっともカワイコちゃんの話が出ないというのは、先生とお目にかかった気がしないわ。どうしたのかしら。
だって、一緒に旅行した、汽車の中で「ちょっと、ちょっと」たんておっしゃって、ゆうべの話を全部話してくださるんですからね。忘れないわ、私。

いじめられっ子
今 それよりナ、あんたに会ったら思い出した、生田花世さんね。
瀬戸内 ええ、亡くなった……。生田春月の奥さん。
今 あれは阿波の女だってね。
瀬戸内 そうですよ。女学校の先輩です。亡くなる前に会いました、岡本かの子を書くときに。なぜ会ったかといいますと、岡本かの子が『青踏』で一緒だったわけですよ。生田花世が「貞操論」なんかを書いて、すごくいろんな意見を出していたころです。かの子は春月と花世が住んでいた所へ、恋愛間題で悩んで訪ねて行くんですよ。花世さんが、いろいろ相談に乗ってやるんですが、彼女は堅い、堅い人で、およそヤボな、ヤボな人で……(笑い)。春月はなぜ惚れたんでしょう、あんなみっともない人に(笑い)。
今 いや、花世が春月に惚れたんじゃない。
瀬戸内 春月に惚れたって、春月が相手にしたわけでしょう。結婚したんだから。
今 だけど、春月だって、おなごのほうから好きにたるようなタイプじゃないよ。
瀬戸内 ああ、そうですか。
今 春月という人はね、一つも評判にならない詩人だったんだよ。ドイツ語を勉強して、ゲーテの詩集なんか読んでましたがね。苦学力行だから、ゼニはなし……ぼくがどうして春月を知っているかというと、佐藤春夫さんと同時に知ったんです。春月は、生田長江の書生をしていたのよ。
瀬戸内 それで生田春月というんですか?
今 生田は生田だけれども、同郷なんだ。鳥取県に生田という名前があるんじゃないですか。
瀬戸内 なるほどね、親類でもなんでもない。
今 生田春月は米子の人で、長江先生はちょっと離れた所です。金がないから長江先生を頼って行った。じゃあうちの書生をしろ、というんで書生をした。ところが佐藤春夫は書生じゃないんだ。和歌山新宮の学校でね、軟派の文学少年でまア注目されていた。ところが、佐藤さんのおやじは困っていた。そこへ生田長江先生が講演に来たんです。おやじは伜のことを相談に行く。長江先生が「いや、しようがなくない。おれに預けろ」と答える。佐藤さんのおやじは懸泉堂というお医者様なの。
瀬戸内 ハイ、ハイ、私は行きました。
今 あすこを汽車が通るようになって、庭が切られちゃった。それまでは非常によかったそうです。
瀬戸内 「わんぱく時代」に書かれてますね。
今 だから春夫のほうは学費は豊富だし、長江先生の所にいても、居候じゃない。そして書生をし玄関番をしてるのが春月です。佐藤さんはああいう人だから、小遣いやったり、焼きイモ食うときは一緒に食うとかね(笑い)。そんなことしながら、書いたものを発表することは発表したんですね。ところが、何一つ、ダメたんだ。
ところがね、「霊魂の秋」を刊行し「感傷の春」を出し「象徴の鳥賊」を出したんだ。春月の詩は、ご承知のとおり、ちょっとセンチメンタルで、それが文学少年にウケたのよ。それで売れ出したんだ。そうしたら詩人がヤキモチ焼いてね(笑い)。だからおれは佐藤春夫に話したけれども、学校時代にだね、いじめっ子ってあるだろう。
瀬戸内 ええ、あります、あります。
今 おれがそれだからね。必ず一人は、いじめっ子で、しようのないヤツがいるもんだ。そうかと思うと、なんとなくいじめたくなるヤツがいるもんだ。
瀬戸内 いじめたくなるのがありますよ。
今 それは金持ちの息子とか、貧乏たれの娘とかいうんじゃねえんだ。なんとなく、入ってくるとね、ツラをポンと叩いたりね。それがあったのが春月たんだよ。非常に不幸な人だから、みんなで庇護してやればいいのに、あいつを見ているとね…あなた、会ってないでしょう。
瀬戸内 会ってないです。
今 毛が濃くてね、首をこう曲げてね(下を向く。笑い)みんなのいる所で「春月さん、こっちへいらっしゃいよ」。(うつむいて)「ええ、ええ」はきはきしねえんだな、オイ。そうすると、こっちは「なにさらしてんだ!!」っていいたくたるんだ。なんかさからってる……いや、ひがんでるんだ。それほどひがんでるんなら、いじめてやろうか、というんで、みんながいじめちゃうのよ。それで詩の本も売れねえときは、みんないい気持ちになっていたのに、詩が売れ出したら、みんなアタマに来ちゃったんだよ(笑い)。
瀬戸内 それで花世さんまで貰っちゃった。

やはりセックスしないとダメ
今 なんというの、そんなセンチメソタルな、女の子、泣かせるようないやらしいものを書いて、あいつは正統詩人ではないんだと、なにか傍系に、傍系に扱われるんですよ。詩人の集まりというと招ばれなかったり。あれは詩人じゃねえよ、ってわけだ。それが非常に彼を苦しめたんじゃないんですか。
かといって、おれみたいに、すぐファイトをわかして「ヨシ、そんならみんなを相手にケンカしてやろか」という元気もない。そういう時に花世があらわれた。花世ってのは、ホラ、あんたも知っているように、シチ堅い。
瀬戸内 そうです。みっともないし、堅いし。
今 それが春月の詩を見て、感激したんだ。彼女にはそんな恋愛感情なんてもの、子供のときからありゃアしないよ。腹出てきたときから、未亡人みてえた顔して出てきたんだ。
瀬戸内 ほんとにそうです。ほんと、そんな顔してる。
今 常にお通夜みたいな顔してる。
瀬戸内 どうしてあの人と一緒にたったかと思って。
今 それが詩を見たら、ほのかなる愛をうたい、ね、なんかもうたまらないんだな。
瀬戸内 びっくりしました、私もあの結びつきには。
今 そんたら春月を訪ねようというんで、来たんだた。春月もいまだかつて柔肌に触れたことないから、目をつぶりゃアすむことだから(笑い)……。
瀬戸内 それで、やっばり彼女だって阿波おんなだから、情熱家でしょう、一生懸命、尽くすんです。とても尽くすのよね、それは。彼女は徳島高女の第一回卒業生で、インテリでしょうね、昔の。「貞操論」なんか書いて、大変でした。あのころは貞操は命より大事といわれていたのに、生きるためには貞操を売ってもいい、というようなことを書いたんです。だけれども、だれも貞操を買いにくるような顔をしてないのよ(笑い)。
今 田舎のボタ餅を、朴歯の下駄で踏んづけたような顔してた。それでギュッと泣いたのが春月ときてるんだ。二人ともペソかいてる。
瀬戸内 春月が死んでから、ひとりでいたんですけどね、とにかく汚くてね。着るものなんかも汚くて、お金持ちの同窓生が、みんな花世さんに着物を贈って着せるんです。も少しきれいにして下さいって。
私が会ったときは、婦人サークルに「源氏物語」を教えていました。中野の駅前で会いましょうということになり、買い物カゴぶらさげて行った。お互いに会ったことがないけど、すぐわかったんですよ。とてもいい人でしたよ。きさくで親切で。
岡本かの子のことをいろいろ教えてくれましてね。堀切重雄という早稲田の学生に惚れて夢中になったときに、その相談を生田花世さんにしたんですって。「わたしは、一平とは一緒にいるけども、一平はセックスは全然しない。わたしは人よりも情熱家だから、とてもたまらない。堀切重雄さんはとてもいいんだ」と、洗い髪でやってきて、朝から晩まで話したそうです。
それで生田花世は、かの子の大恋愛を聞かされたために、自分は春月しかしらない。世の中にはこういう恋もあるということを知った。「そのために、わたしはいま『源氏物語』の講義ができます」っていいましたよ。
今 へえ……。とにかくあれはね、思想的にはね、春月より上なんだ。春月は、佐藤春夫の輝かしさの陰で、とぼとぼついて歩いてるんだから、みんなが、あいつがくると、うっとうしいねと、困ったくらいなもんだ。
瀬戸内 それで自殺は瀬戸内海の船の上からでしたね。
今 あれは心中だという話もある。そんな女がいたというのは、佐藤春夫に聞いたんだな。だれも知らねえんじゃないか。伝記にもない。
瀬戸内 花世さんも知らなかったのかもしれませんね。
今 いや、知って悩んでいたんじゃないかな。春月はその女にラブレターをせっせと書いていたんだからね。のちには、うちにいてもセックスもしないでね。こんなになって、首を曲げてうつむいていたんじゃないか。
瀬戸内 セックスしないとダメですか、先生。
今 ときどきやらたいといけないよ。

宇野千代さんとの赤門のデート
瀬戸内 そっちのお話きょうはできませんね、高尚な上品の話ばかりで。先生、いまストーブじゃないでしょう? いつかおっしゃっていた。川端先生に、女はそばへ寄ったらヤケドするから、ただ、そばであたるようにしていればいいんだって教えたと。そうすればヤケドしないで、エネルギ―だけ貰えるって。そして川端先生に「おれなんかはヤケドしない、おまえなんかはストーブでよろしい」って教えた。
今 ……(ニヤニヤ笑っている)。
瀬戸内 あのね、先生、あれ覚えていらっしゃる? 宇和島で、ホラ、かわいい芸者だったけれども、三里のお灸をすえていた。
今 忘れちゃった(笑い)。
瀬戸内 ずるい。それで先生、一晩中聞かれたの、ご存じですか? 私は隣の部屋で寝てたの。そしたら、岡部(冬彦)ちゃんと、もう一人悪い人がいて、私の部屋へ忍びこんで来てね、先生が三里のお灸の彼女と何するか、一晩中聞いていたんですよ。十二時から朝の四時まで。
今 眠ってた(笑い)。
瀬戸内 ジョウダンおっしゃる。「お祭りへ行ってなア」とか「椎の山があってなア」とか「おれはな、子供のときから坊主になった。手にアカギレができて、たいへんな山で……」なんて、苦労話を前戯でおやりになるということでございました。
今 前戯? ソレ。ははア……(笑い)。おれがホストの対談なのに、なんでおれを責めんならん(笑い)。
瀬戸内 それで翌日汽車に乗るでしょう。そうすると「ゆうべねえ」なんて逐一話してくださった。三里のお灸の子は腋の下が感じたっていったわよ、先生。
今 そんなことないんだよ。
瀬戸内 みんな現実に見てるんですから。
今 そんなこと、おまえ……(笑い)。
瀬戸内 それから、黒岩(重吾)さんがね、あの人、足がおわるいでしょう、それで政府がタダで補聴器をくれるんですって。ヘンですね。それでその補聴器を持ってさ。先生がホテルヘお泊まりになった、黒岩さんと岡部ちゃんとが隣の部屋から、補聴器で全部聞いたんですって。そしたらイビキばっかり。
今 オール、イビキ。なんでだろうと思ったら、目盛りを十八という強烈なヤツで聞いてたんだって。バカなヤツだね。バカなヤツ(笑い)。
瀬戸内 宇野千代さんとの昔の恋物語なんてすてきですね。淡い恋だったんですか。
今 何もないんだ。
瀬戸内 不思議ですね。二人の大猛者がね。信じられない。キスぐらい……?
今 ウン、ウン。大震災直後ぐらいじゃないかな。こないだ彼女に会ったとき、五十何年ぶりだって勘定してた。
瀬戸内 どこヘキスなさったの、先生(笑い)。
今 パカ!!(笑い)本にはいろんなの書いてるが、そのころはそんなの、はやらねえから。
瀬戸内 先生はどんな顔してキスしたんだろう。きっと、目つぶった?
今 いまみたいにやりゃアしないよ。いまはつぶるなったって、つぶりたいよ。いくらお千代さんでも、縦、横、十文字にシワになってるもの(笑い)。だけど、きれいな子だった。
瀬戸内 ほんとにきれいだったでしょうね。
今 着物の着こなしはいいし、それで黒い、ふさふさした髪でね、銀杏返し。そりゃア得意でね。
瀬戸内 それはよかったでしょうね。先生、いいお気持ちね。宇野さんが働いていらした店、本郷の燕楽軒――でしたね。
今 そう、久米(正雄)さんが夢中で惚れてね。そらア惚れて、口説いてね。それをおれと東郷(青児)が、憎たらしいわけだ。おれは飲めないから、みんなビール飲んでるのに、ぼくとか東郷は紅茶飲んでる。持ってくるとニッコリ笑って行くんだな。東郷があの通りノッタラしたことばで「トコチやーん、あの子、脈があるよ。どこの席へ行ったって笑やしないのに、トコちゃんみるとニッコリするだろ。もう一ぺん用をいいつけてみよう。お砂糖、足らないの」
いろんなものとると金がないから砂糖だけ(笑い)。そうすると、ニッコリ、また持ってきてくれる。とにかくこれは脈がある。といって、「つきあってくれ」とはおれから言い難い。そこで、翌日の昼間、あいつが乗りこんだんだ。
瀬戸内 先生の小説読むと、下宿でなんかしたって書いてある。
今 それはのちなんだ。つき合ってから。それで東郷がお千代さんに会って「ゆうべまた今ちゃんがね、おつき合いしたいっていってるけど、どう」、「いいわよ」ということになって、「今夜、ハネてから、大学の赤門のとこで待ってます」、「じゃ、行きます」――それがそもそも二人で歩き始めた最初。

ただ一回のプラトニック・ラブ
瀬戸内 どうして先生、手を出さなかったんです。
今 いやそれがね、つきあってるうちに、宇野さんが、おれとの結婚を考えていたんだ。ところがおれは結婚に、興味ねえんだよ。それに、うちのパバァのような古いヤツが、女給を「よろしい」というわけはない。おれにはちゃんと見えてたからね。それをしなかったというのは、騎士的感情だた。やりたかったんだよ。やりたかったけども、やったらこの子を不幸にすると、おれ、そう思ったよ。
そういうところがあるから、宇野千代がなおぼくを好きになったろうね。
瀬戸内 宇野千代さんのプラトニック・ラブなんて、先生だけじゃないんですか~
今 うん、あとにも先にもおれだけ。だからやっぱりあの子も、いい思い出を持っている。
瀬戸内 そして、さっきの道でキス、ですね。
今 ホラ、大学へ入って行くんだ。池の端を歩いたり、人影のない所、ない所を歩きながら、木立の所へ立ちどまってはキスし、しばらく歩いて池の端ではキスし……。
瀬戸内 おオ、おオ。
今 しまいに唇がはれたみたい。ふくらんじゃったみたい(笑い)。これ以上進んだら、必ず君を不幸にするといっているうちに、従兄の藤村というのが現れてね、それと一緒になって、札幌へ行っちゃったんです。
いい女でね。みイんな、往来の人が振り返ったよ。こいつ、何べんやろうかと思ったけれども…
瀬戸内 不思議ですね。信じられたいですね。
今 そういうことが一生に一度ぐらいある。
瀬戸内 あるんですね。唯一のプラトニック・ラブですね、先生にとっても。
今 そのあと、東京へ出てきて、尾崎士郎と一緒になったんだ。
瀬戸内そ ういう場合にね、先生、尾崎さんとか、東郷青児さんとか、それから北原武夫さんとか、宇野さんの男たちに対して、どんな感情を抱かれます?
今 いや、なんでもありゃアしない。あの子も、おれに平気でね「士郎さんていい人だからね、今さんもご存じのように」っていいますよ。
瀬戸内 東郷さんの話が出ましたけれども、東郷さんというのは、先生、竹久夢二の奥さんともあったのね。
今 よく知ってるね。東郷が夢二の港屋にいたんだ。
瀬戸内 短刀を持って、どうとかって……。
今 上野で出刃庖丁で夢二に追い廻されたって。東郷青児が。
瀬戸内 そこにね。そのころ、神近市子さんがやっぱり夢二のところにいたわけです。港屋に。神近市子さんとは何もなかったんですか?
今 ないよ。あれは、おれのいとこでおない年の女がいて、それが神近の教え子なんだ。その女学校の後輩が、石坂洋次郎のオカァチャン。弘前の女学校だった。
瀬戸内 弘前で思い出した。弘前の芸者が、先生に馬のようなキスマークをつけましたね。あんな大きなキスマーク見たことない。この灰皿ぐらい大きかった(笑い)。それで岡山で、私と松本清張さんが待ってて、今先生が弘前から来られて合流したの。夏でしたね。
今 ………。
瀬戸内 それで「おォ、暑い、暑い」なんて「ゆうべ弘前の芸者がね……まア見てくれ」――私たち四日間の講演旅行でしょう。その間に消さなければいけない。カアちゃんはいいけど、彼女にみつかると困るから。
そしたら松本清張さんが、いい方法がある、大根おろしをここへのっけたら消えるというの。そこで先生が宿の女中さんに大根おろしを持ってこさせて、おとなアしく座敷の真ン中にジッと寝ていて、私にやってくれとおっしゃるから、つけてさしあげた。すると、清張さんが、私を物陰へ呼んで「ザマア見ろ、あの和尚さん、キスマークが大根おろしで消えるわけはない。インクなら消える」(笑い)。それなのに今先生、おとなアしく寝て、まだ載っけてくれ、っていってるの(笑い)。
今 ……。
瀬戸内 もう一つ面白い話をね、汽車の中で教えてくださった。アソコのね、雑草をね、ハート形に、きれいに線香でカットするって話。かわいらしいから、私にしろっておっしゃるのよ。毎晩、毎晩、お風呂場で、銀のクシを使ってお線香で焼くんだって。それは自分でやらなかったけど、小説で使ったの。そしたら坂本スミ子がそれを読んでね、栗原玲児と一緒にいるころで、私がテレビで栗原さんにあったら「困るよ、あんたでたらめ書いたら。銀のクシと線香買ってこい、買ってこいってきかないんだ」って。
今 おスミがやったの?
瀬戸内 やったんですよ。とてもいいって。あるよその奥さんがまたすごく先生に惚れてて、ハート形にしたんですって。そしたら且那がびっくりしたんだって。そりゃあびっくりしますよね。先生、いるんでしょ、そういう人。
今 知らないねえ(笑い)。

おやじがモテすぎたために……
瀬戸内 宇野千代さんのあとには、プラトニック守ラブはいないんですか? 先生。
今 プラトニック・ラブの相手は、ここにもいる,し、戸川(昌子)もいるし、まあ円地さんもそうだろうし、数えりゃアいろいろいる。
瀬戸内 実行に及んだのはいないんですか?
今 ウン。それよりも里見さんなんかどうだ。もうだめか。
瀬戸内 そんなことないと思うわ。つやつやしてらっしゃる。でも、先生、長もちしていらっしゃるわ。七十四でまだ……。
今 おまえ、わかりゃアしないじゃないか。よけいなことをいうない(笑い)。川端はね、「もう二十年このかた、ないよ」っていってた。大宅壮一は「もう十年このかた、ないよ」
瀬戸内  鍛錬法があるんでしょう?
今 そんなこと、ないよ。
瀬戸内 これは生まれつきですか?
今 そう。
瀬戸内 お父さん譲りなのかしら。船長さんですごくモテタそうですね。
今 おやじは全然ダメよ。
瀬戸内 宮田文子がね、武林無想庵の奥さん、あの人が、今先生のお父さんに、もう夢中。
今 だけど、あれ、してないよ。だってうちのおやじは大変なピューリタンでね。
瀬戸内 あんなすてきた人はないって、私、宮田さんからじかに聞いてますよ。宮田文子が惚れちゃったんですね。彼女きれいだったでしょう。
今 とにかくうちのおふくろがアタマにくるのは、神戸へ行って待ってると、宮田文子は上海まで迎えに行って、ちゃんとおやじと一緒の船に乗って帰ってくるんだ。それでいて、やっていない。だって、おれにいうんだもの。「パパはどうしてもダメなのよ」って。
瀬戸内 じゃ、先生でもいいと思ったんじゃないんですか。
今 そうはいかない(笑い)。そのころ、おれは下宿ずまいだった。彼女は人力車で芝公園から谷中の下宿までやってくるんだ。それであれが玄関に立つとね、下宿の主人夫婦始め女中までみんなびっくりした。きれいだしね。「パパやママに苦労かけなさんなよ」って。おれは「ババアを追い出して、おまえさんが坐るたら、おれは賛成するよ」なんて冗談いってた。そんな仲だ。「しようのない息子ねえ」なんて帰っていくだろう。座布団を片づけると、ちゃんと下に、そのころで半年もつぐらいのカネがある。これは偉い女だなと思った。おれが、下手な絵や詩を書いてる時代でね。
瀬戸内 きれいな方ですね。まだ若かったし……。
今 撫で肩で、黒ちりめんの羽織で。
瀬戸内 私はどういうわけだか、晩年の、死ぬ直前の文子さんに好かれましてね、とてもかわいがられたんですよ。帝国ホテルの旧館にいらしたでしょう。ぜひこい、というんで行くと、あの自殺したイボンヌというお嬢さんが私と同い年なんですね。イボンヌのご主人というのが、辻潤と伊藤野枝のあいだにできた辻まことさんという画家ですよね。
今 イボソヌは自殺したの?
瀬戸内 自殺したのよ、先生。それで、私が行くと、ホテルのトイレの中でピフテキを作ってくれるんです。それが何ともおいしいの。
今 なぜトイレの中で……?
瀬戸内 帝国ホテルの中じゃ、料理作っちゃいけないでしょう。だからトイレに電気コンロを入れてあるんですよ。それが突然倒れられて、私は報せを受けてかけつけましたが、死に顔は、お化粧して、浴衣を着てとてもきれいでした。そんなわけで、私は文子さんから、今さんのお父さんがどんなにすばらしい方か聞かされたんですよ。そのとき、いってましたわよ、「あの今東光の親とは思えないくらい」って。
今 ひでえもんだナ(笑い)。まあ、もてたことは間違いたいな。三浦環、荷風夫人のころの藤蔭静枝、天勝、川上貞奴、みんなおやじのファγだった。
瀬戸内 じゃ、お母さんがあまりよくなかったーーというわけですか。
今 よくねえんだ、あのババア。おれがよくねえのは、みんな、あのおふくろのせいですよ(笑い)。

休和尚は一段も二段も上
今 しかし、おれも長く生きたもんだな。芥川さんが死んだとき、おれも実は死にたかったんだ。いろんな意味でね、思想的にも悩み家庭的にも悩み……そうしたら、ちょうど芥川さんが死んじゃったでしょう。それで、のちに菊池寛とも話したんだけど、芥川の女問題でね、知ったかぶりして書き立てたりするだろう。そういうの見たらね、まるで死者に鞭打ってるみたいで、これは芥川さんでそのくらいだから、おれたんか死んだらどんなことになるかわからん、これは死ねないぞと、思いなおした。それで得度したわけですがね。
瀬戸内 でも、得度するのは、すぐはできないんでしょう。修行しなければいけないんでしょう?
今 阿閣梨さんが見て、これは本気かどうか、根性から試すけれども、ぼくの場合は、必死でしたからね。死ぬ気でいたんだ。
瀬戸内 私がいま得度したいといったら、先生、やってくださる?
今 そりゃあ、やりますよ。
瀬戸内 ほんとのところ、私はその気があるんです。このあいだ、円覚寺で講演したときに、朝比奈(宗源)さんが私の話がとてもおもしろいとおっしゃってくださった。ですから、得度するなら、朝比奈さんにお願いしようかな、と思ったんですけれど、やはり、先生にお頼みしようと思って……。先生、得度してくださいます?
今 やるよ。おれは、戸川(昌子)にも、本気で得度しろといってるくらいなんだよ。
瀬戸内 でも、戸川さんはまだ若いし……。
今 戸川はお寺持ってるんだよ。
瀬戸内 彼女には、そんな気ないでしょう。
今 だからバカだって、おれはおこるんだよ(笑い)。
瀬戸内 私はやる気あるんですよ。したいことをさんざんしたから、もう尼さんになろうと思って……。先生、お元気なあいだに、得度してくださいね。得度の話、だれにも話しちゃだめですよ。
今 ………。
瀬戸内 川端さんもしておられれば、また違っておられたでしょうか。
今 一休さえ自殺をはかった、自殺はいけないとね。ところが、一休はぼくの日本で五人の好きな坊さんの一人ですね。あれはおれぐらいの年、晩年にお森という女がいた。目が見えないの。絶世の美人。
瀬戸内 ワアー、素敵。
今 それでな、メンスになってて悲しんでな、足をさすったりする詩があるんだよ。お森のイズミの香りがとてもかぐわしいとかさ。
瀬戸内 アラア、素敵ね。一休って、素敵ですね。
今 一休ぐらいすばらしい坊主ありませんよ。
瀬戸内 岡本一平さんが一休伝を書いているけれど、大してよくない。どうして先生、お書きにならないんです。
今 おれよりも一段も二段も上、第一、あの字を見たらね、とても書けたいよ。
瀬戸内 私なんか、なお書けない。でも、盲、蛇に怯じずっていいますからね。
今 ぜひ書きなさい。応援しますよ。


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