引き続き前回の週刊ダイヤモンド(3月8日号)を取り上げたい。以下は同誌特集Part 2「消滅する職種 勝ち残る職種」(p.49)からの引用だ。
正社員は減り続け経営層だけが残る新たな働き方を模索 「現実は、あのリポートよりもっと早く進むかもしれない」 経営コンサルタントの長沼博之氏はこう指摘する。テクノロジーの進歩は、さらに指数関数的な勢いで進んでいるためだ。 そうなった場合、われわれはどういう働き方ができるのか。 一つのヒントは「クラウドソーシングにある」と長沼氏は話す。 クラウドソーシングは、企業がネットを通じて、不特定多数の個人に業務を委託するもの。個人のデザイナーやプログラマー、ライター、翻訳家らが、会社に出社しなくても世界中のさまざまな企業から仕事を受注することができる。 業界最大手のランサーズの秋好陽介社長は「日本では20年には正社員比率が50%を切るといわれている。そうなると、かなりの仕事はクラウドソーシングされたり、ロボット化され、会社組織には部長以上しかいなくなるのでは」と指摘。「その中で、時間や場所にかかわらず、どこでも働けるのが新たな生き方」と提唱する。 長沼氏によると、これからの仕事は単純作業や計算的なものがコンピユータ化、クラウドソーシングざれる」方、より創造的で、人との対面が必要な感情労働が従業員の仕事とじて残っていく。 こうした社会では「われわれの年収が200万円に落ちても、テクノロジーの恩恵で今の年収500万円以上の生活が送れる。決してネガティブではない」と長沼氏。 それは、われわれ人問にしかできない、人間らしい仕事にだけ集中すべきということかもしれない。
ご参考までに、英文だが長沼氏が語るレポートとは以下の論文を指している。 http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
ここで腑に落ちないのは年収についての長沼氏の話で、200万円では独身ならともかく、これでは結婚して家庭を持ち子どもを育てることもできない。
それから、「個人のデザイナーやプログラマー、ライター、翻訳家らが、会社に出社しなくても世界中のさまざまな企業から仕事を受注することができる」というクラウドソーシングとやらの世界は、すでに現実のものとなっているのだ。亀さんは翻訳を生業としているが、翻訳の仕事を始めた2000年の時点からメールで翻訳の仕事の打診を受け、訳し終えたものをメールに添付して翻訳会社に納品するというパターンで今日まで来ている。
亀さんの場合、インターネットのおかげで徐々に世界中の翻訳会社との取引が増えていった。ここで過去のデータを確認してみると、初めて海外の翻訳会社と取引を開始したのは、2006年4月18日とある。2006年当時の取引先のうち、国内の翻訳会社の仕事が全体の95%を占めていたのだが、2014年の今日では逆転して海外の翻訳会社の仕事が全体の95%を占めるまでになったこともわかる。
さらに、過去のデータをドルvs.ユーロの視点で眺めてみて、面白いことに気付いた。最初はドル、ユーロ、ポンド、クローネといった外貨で翻訳料の支払いを受けていたのだが、当初は比率から言えばドル対ユーロは5対1と、圧倒的にドルによる支払いが中心だったのだ。ところが、2011年にはほぼ1対1となり、2年が経過した昨年(2013年)に至っては1対3と逆にユーロで支払いを受ける方が多くなっている。
ついでに、ユーロと亀さんの面白い関係を述べておこう。翻訳者を目指した亀さんは1998年9月30日に前に勤めていた会社を希望退職したのだが、その3ヶ月後の1999年1月1日に欧州通貨統合か成立、すなわちユーロが誕生している。つまり、亀さんの翻訳者としての人生はユーロのそれと重なっているというわけだ。
ここで、ユーロか誕生した背景は大切なので、心に刻んでおく必要がある。このあたりを簡素にまとめているのが、『プーチン最後の聖戦』(北野幸伯著 集英社インターナショナル)だ。
欧州の、たとえばドイツ、フランス、イタリア、スペインなどが一国で覇権を取るというのは、あまりにも現実離れしています。では、どうするか? そう、欧州を統合し、巨大な一つの国家にしてしまえば、アメリカから覇権をうばえるだろうと。 フランスの著名な経済学者で、一九八一年~一九九一年まで大統領補佐官をつとめたジャック・アタリはいいます。 「通貨統合・政治の統一・東欧やトルコヘのEC(欧州共同体)拡大。これらが実現できれば、欧州は二一世紀アメリ力をしのぐ大国になれるだろう」 反対に、「アメリ力をしのぐ大国になるために、EU(欧州連合)を東欧に拡大し、共通通貨をつくるのだ」ともいえますね。 そして、一九九九年一月一日。欧州通貨統合がスタートしました。 ユーロの誕生です。 当時参加一一ヶ国の人口は二億九〇〇〇万人、GDPは六兆三〇〇〇億ドル。アメリカは二億七〇〇〇万人の七兆八OOO億ドル。 ついに、ドル体制を崩壊させる可能性のある通貨が登場したのです。 『プーチン最後の聖戦』p.110
ここでのポイントは、基軸通貨としてのドルの時代に終止符を打つということであり、まさに今のプーチンが狙っていることと重なるのだ。このあたりは説明すると長くなるので、北野氏の『プーチン最後の聖戦』を一読すると良いだろう。ただ惜しむらくは北野氏の場合、ツランという視点が欠けている。そのため、全体的に解説調で深みのない本で終わっているのが残念である。同書の深みを増すためにも、栗本慎一郎や天童竺丸の著作に目を通すことを勧めたい。
また、オバマ大統領に対する見方で、その人の持つ大凡の世界観が分かるというものだが、北野氏の場合は以下の行に全てが出ている。以下の行を北野氏が書いたのはオバマ再選前という点を割り引くとしても、北野氏のオバマに対する見方は底が浅いと言わざるを得ない。
さて、オバマ。 オバマは、自分の政策を「グリーン・ニューデイール」とよぶなど、ルーズベルトを研究していることはまちがいありません。 そして、ルーズベルトとまったくといっていいほど、同じ道を進んでいます。 大規模な景気対策で状況を安定させた。 しかし、財政均衡派から激しいバッシングを受け、苦しんでいる。 ルーズベルトはその後、「戦争」という選択をし、アメリカ経済を復活させました。 これは、アメリカの歴史でも(人道的な話を抜きにすれば)めったにない成功例でしょう。 ヒトラーという大悪党をやっつけたばかりでなく、景気もよくしたのですから。おかげで、ルーズベルトは、ワシントン、リンカーンとならび称される「偉大な大統領」とよばれています。 もしオバマが「偉大な大統領」になりたければ、「彼のやり方を真似よう」と考えても不思議ではありません。
そう、オバマは「戦争をしてアメリ力を復活させよう」とするのではないでしょうか?
ちなみに、「核なき世界」「イラクからの撤退」などを叫び、大統領に当選したオバマ。「ノーベル平和賞」も受賞しています。 ところが二〇一一年三月、ちゃっかり「リビア戦争」を開始しています。 アメリカ史上最悪の財政状態でも、戦争をする。 いや、史上最悪の財政状態だからこそ、戦争をするのでしょう。 『プーチン最後の聖戦』p.277
ところで、北野氏は以下のようなことも書いている。
人間はなぜ、こんなバカげたこと(亀さん注:冷戦も含めた戦争)繰り返すのでしょうか? 仲よく暮らせばいいのに。私にはわかりません。 『プーチン最後の聖戦』p.268
このあたりの回答は、亀さん流に近く記事にしたいと思っている。

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