小生は一月二十四日の拙稿「ウクライナ情勢」で、佐藤優氏の記事を以下のように高く評価した。
この佐藤氏の記事は8年前の記事なのだが、今日読み返しても、ウクライナの国情を知る上で最良の記事の一本だと小生は思っている。
しかし、二週間ほどが経過した二月五日、JBpressから以下の記事が掲載されたのである。 ロシアのプロパガンダを発信してしまう日本の「専門家」たち
同記事で、2013年にリヴィウ国立大学(ウクライナ)修士課程を修了(国際関係学)し、その後は在ウクライナ日本国大使館専門調査員だった(2014~18年)平野高志氏、佐藤優氏について以下のように評した。
例えば外務省主任分析官であった佐藤優氏は「Business Insider Japan」の記事で、「ウクライナは東部と西部で文化が異なる」として、以下のように述べている。
「西側のガリツィア地方は、歴史的にはハプスブルク帝国に属する地域で、ウクライナ語を使い、宗教はカトリックです。一方、ロシアに近い東側のハリコフ州やドネツク州に住む人々はロシア語を常用し、宗教的にもロシア正教なんです」
残念ながら、このウクライナを西と東で決定的に異なる地域かのように紹介する、いわゆる「ウクライナ東西分裂論」は、ロシア政権が2014年のウクライナ侵攻の際に好んで用い続けた、典型的な偽情報だ。ウクライナの実態は、このように東西を2つに単純に分けることは不可能である。地図を見ながらその問題を検証してみよう。
続いて平野氏は、本当のウクライナの国情について詳述した後、以下の結論を述べている。
上記のような偽情報は2014年以降、さまざまな専門家の間で頻繁に見られる。特に昨年(2021年)秋以降、「ウクライナがあたかも2つに分断している」かのように示す、専門家による日本語記事は急速に増えている。
では、そうした偽情報を流しているのは何処なのだろうか? その点についても平野氏は明瞭に述べている。
なお、ロシア発の偽情報が日本語空間に入ってくる際のチャンネルは以下の3つに大別できる。
(1)ロシア大使館がSNSアカウントを通じて発信する公式チャンネル (2)「スプートニク」や「ロシア・ビヨンド」といったロシア国営メディアによる半公式チャンネル (3)ロシア発の情報を用いて日本語で発信する日本人専門家による間接的発信
その中で日本における特徴は、(3)の専門家の情報発信の中に紛れ込むロシア発偽情報が特に多いことである。例えば、現在の緊迫するロシア・ウクライナ情勢に関しても、ロシア大使館やスプートニクはそれほど活発に偽情報を発信していないのに対し、(3)の専門家の情報発信に見られるロシア発偽情報は過去2カ月で急増している。
そもそも、ロシア語を理解し、ロシア発の情報を日本で伝えられる人は、日本のメディアでは「ロシア専門家」として重宝されがちであるが、問題はその専門家がしばしばロシア政権が拡散する偽情報を検証せずに日本社会に伝えてしまうことにある。しかも、その情報の真偽検証ができる人が日本にはまだ少ないために、ロシア発偽情報がそのまま日本の読者に伝わり、その結果、ロシア政権が望む対日世論操作が実現する余地が生じてしまっているのだ。
以上で平野氏の玉稿についての紹介を終えると同時に、拙稿「ウクライナ情勢」で紹介した佐藤優氏の記事についての小生の評価を取り下げたい。そして、間違った情報を読者に伝えてしまったこと、心よりお詫びする次第である。
ところで、平野氏は「スプートニク」を紹介していたが、そのスプートニクに以下のような興味深い記事が掲載された。 史上最大のKGB機密漏洩資料「ミトロヒン文書」の中身とは
現在、『ミトロヒン文書 KGB・工作の近現代史』(江崎道朗監修・山内智恵子著 ワニブックス)という書籍を小生は通読中で、読みながら思うところが多々あった。よって、このあたりについては次稿で述べたいと思う。

なを、上掲書を通読したというTOMOKOさんのコメント、実に優れていた。ちなみに、赤線の〝独裁者〟とはプーチンのことだ。

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