前稿「武士の時代 04」で小生は、『月刊日本』(2018年1月号)に掲載された、「佐藤優 『愚管抄』で危機の時代を読み解く」という記事の結語を紹介した。
米中主導のグローバリズムや皇統の問題に直面する今、私たちは『愚管抄』で13世紀にタイムスリップしてもう一つの日本と向き合いながら、日本国家とは何か、皇統とは何か、考えを深めていきたいと思います。
十年の長きにわたって続いた、『太平記』を読み解くの最終講義で、『愚管抄』と『神皇正統記』という相反する史論を採り入れた古典が、『太平記』であると佐藤氏は語っていたのだが、ここで、これら三冊の古典を振り返ってみるとすれば、最初に言及すべきは、『愚管抄』および『神皇正統記』だろう。この両書は、中世日本を代表する史論書であり、後の『太平記』に多大な影響を及ぼしただけでなく、徳川光圀(『大日本史』)、山鹿素行(『武家事紀』)、新井白石(『古史通』)、頼山陽(『日本外史』)らも同様な影響を受けたことは夙に知られている。
ところで、「グローバリズム志向の『愚管抄』、そしてナショナリズム志向の『神皇正統記』」と、前稿で小生は書いたが、このあたりを一層明瞭にする意味で、佐藤優氏自身による解説を、『月刊日本』(2018年1月号)から転載しておこう。
ここで提起されている本質的な問題は、グローバリズムです。『愚管抄』は末法思想と百王説にもとづいて「天皇は百代で滅ぶ」と予言し、『太平記』は「不徳の君子は位を失う」と予言していますが、これらは仏教的・儒教的(孟子的)なグローバリズムです。天皇はグローバリズムに呑み込まれて必然的に衰退するんだという認識ですね。その意味で『愚管抄』は仏教的な普遍性を説いたグローバリズムの書なのです。
これに対して全面的な反論を展開した思想書が『神皇正統記』です。北畠親房は『神皇正統記』の開巻劈頭で「大日本者神国也」と宣言し、日本は神国だから天照大御神の子孫である天皇は永遠に続くと確信したのです。その意味で『神皇正統記』はわが国の特殊性を謳ったナショナリズムの書なのです。
このように『太平記』には『愚管抄』の論理と『神皇正統記』の論理が混在しており、『太平記』を理解するためにはそれらを理解する必要があります。それだから『太平記』を読み終わった後、これからは『愚管抄』、そして『神皇正統記』に遡っていきます。
一方、以下の佐藤氏の発言・・・
『愚管抄』と『神皇正統記』を読めば、日本が分かると私は思う。南北朝時代はそれ以前とそれ以後の日本を画する時代であって、『愚管抄』までの日本と『神皇正統記』からの日本は、違う国だといっても過言ではありません。
これは、どういうことか?
佐藤氏が『太平記』を講義していた十年間は、報告記事の形で『月刊日本』にも毎月掲載されていたものであり、実に優れた文章だったので小生は毎号欠かさず目を通していたものだが、残念ながら『愚管抄』の報告記事は、『月刊日本』には掲載されていない(月刊日本HPで確認済み)。『太平記』講義の報告記事が優れていただけに、『愚管抄』の報告記事が無いこと、残念な思いである。何故なら、「『愚管抄』までの日本と『神皇正統記』からの日本は、違う国」とする佐藤氏の言葉、飯山史観を熟知する身として、どうも腑に落ちない言葉であり、何故に佐藤氏はそのように考えたのか、本当のところを知りたかったからだ。
さて、両書の成立時期だが、『愚管抄』が成立したのは南北朝以前の鎌倉時代、承久2年(1220年)、そして『神皇正統記』の初稿が完了したのが、延元4年(南朝)/暦応2年(北朝)(1339年)(修改完了は興国4年/康永2年の1343年)の南北朝時代だ。
南北朝時代を境に、それ以前とそれ以降の日本は大きく異なるとする佐藤氏の言葉、何故に佐藤氏はそのように思うのかは、今のところ不明なので脇に置いとくとして、いずれ南北朝に筆を進める段階に入ったら、飯山史観を中心に、今東光史観と落合莞爾史観を加味して筆を進めていくつもりである。佐藤氏の上掲の言葉の真意も、判明したら併記したいと思う。
最後に、飯山さんが語った南北朝について、重要な発言を以下に再掲しておこう。
600年前、北朝側が南朝側を「根絶やし」にすべく、南九州は志布志まで 追討してきた「証拠」(石の板碑)を見ると、下甑島の和田家こそが楠木家 の本流・直系であるとの「自認」が正しい! と、私は思っています。 http://grnba.bbs.fc2.com/reply/15558491/310/
小生も上掲の飯山さんの発言に関連して、拙稿「薩摩ワンワールドと皇室」を書いている。
一方今東光和尚の後醍醐帝観については、拙稿「隠岐島に残る悪政の烙印」で記事にした。
また、落合莞爾さんの後醍醐帝観については、『南北朝こそ日本の機密』を紐解くと良いだろう。または、以下の拙稿を参照のこと。
「南北朝こそ日本の機密」 今日的な問題 -南北朝- 落合秘史II
【追記】
【Front Japan 桜】ナショナリズムと資本主義経済 / 拡大する中国の歴史改ざん / 韓国猛追!日本の漫画・コミックの不安な未来[桜R2/10/19]
佐藤氏のグローバリズムvs.ナショナリズムが中世日本の話なら、上掲の動画で三橋貴明氏が語る「ナショナリズムと資本主義経済」は、現在進行中の話であり、両者を対比させる意味で興味深いはずだ。尤も、佐藤氏の「グローバリズムvs.ナショナリズム」は歴史に重きを置き、一方で三橋氏の場合は経済に重きを置いているので、この違いを念頭に置いた上で、見比べていただきたい。
因みに、上掲の動画は一時間半と長いが、三橋貴明氏による「ナショナリズムと資本主義経済」についての解説は、15:40 - 31:45と15分ほどなので、そこだけでも見ることをお勧めする。

殊に、最後の方で三橋氏が掲示した以下の図表、現時点における日本の本当の姿を示した図表であり、日本で生を享けたことの幸せを感じさせてくれる図表だ。だから、日本人としての自信と誇りを取り戻す意味でも、一人でも多くの同胞に三橋氏の言葉に耳を傾けて欲しいと願う。

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