数日前の拙稿「満島ひかり×海部陽介 」で、人類進化学者の海部陽介の研究内容について、亀さんは以下のように紹介した。海部の研究だが、アマゾンの『日本人はどこから来たのか? 』(文藝春秋)にアクセスすれば、「内容紹介」に研究のアウトラインが示されており、それに目を通すことによって、大凡の海部の研究内容が分かるはずだ。
上の拙稿アップ後、ついでにカスタマーレビューに目を通してみたところ、海部の著書を高く評価している読者と低く評価している読者とに別れているのに注目、全員のレビューにサーッと目を通してみて、評価の分かれ目が海部のDNA観にあることを知った。そして、海部の著書に星一つという評価を付けた読者の一人、蒼穹の歴女 という女史(?)に注目した。一見、日本・東アジア古代史に造詣が深そうに見えたので、今度は女史の他のレビューも読んでみたという次第である。それで分かったことは、日本や東アジアの古代史に詳しいことが分かったものの、女史の歴史の見方が既成枠に留まっている、つまり、世の中に流布する古代史研究成果の範囲に、女史の史観が限定されているということだった。せっかく東アジアおよび日本の古代史について、女史は豊富な知識を身につけたというのに、実に勿体ないことだと思った。以下に数例だが、そのあたりの具体例を示しておこう。■邪馬台国 女史が高く評価(星五つ)していた数少ない本の一冊に、『邪馬台国をとらえなおす』( 大塚初重 講談社現代新書)がある。だが、考古学者の大塚初重は畿内説を採っている人物であり、そんな大塚に対して女史は、「タイトルとおり邪馬台国をとらえなおし、現時点までを総括した良書といえます」と、高く評価しているのである。 しかし、山形明郷先生の邪馬台国=遼東半島説を支持する身としては、到底納得できるものではなかった(旧稿『邪馬台國論争 終結宣言』 参照)。尤も、山形説を支持している人は極めて少数派なので、山形先生の著書に女史の目が届かないのも、やむを得ないのかもしれない…。■アクエンアテン 女史のレビューによれば、『古代倭王の正体 海を越えてきた覇王たちの興亡』(小林惠子 祥伝社新書)に、アクエンアテンについて言及した箇所があるという。しかしエジプトのアテン信仰はアクエンアテン一代でたちまち廃絶し、太陽神を信仰するのは奄美大島のみになった。しかも紀元前五~四世紀になると中国は春秋戦国時代に入り、奄美大島の最大の貿易相手国である江南も騒乱の時代に入った。その結果、邪馬台国の海洋貿易も衰退したらしい。 (33~34頁)
邪馬台国=奄美大島説を唱えているという小林惠子には恐れ入ったが、それはともかく、せっかく女史はアクエンアテンについて言及していながら、アクエンアテンの正体が一神教であり、今日に至るまでの世界に及ぼした影響が大きいことについて、全く言及していなかったのは惜しい。しかし、そうしたことについて、女史は全くご存知ないようなので仕方がないのだが…。ちなみに、このアクエンアテンの正体を徹底的に暴いた良書として、『憎悪の呪縛 一神教とユダヤ人の起源』(天童竺丸 文明地政学協会)があり。同書については拙稿「農耕民族vs.遊牧民族 」で紹介したので参照されたい。■シュメール 『シュメル―人類最古の文明』(小林登志子 中公新書)に対して、「シュメルは人類最古の文明ではありません」と反論する女史の意見は正しい。しかし、残念ながらミヌシンスク文明についての言及が一切ない。ないと言うよりは、同文明の存在にすら気づいていないことが一目瞭然である。ミヌシンスク文明については、拙稿「ミヌシンスク文明 」で取り上げている。■魏 『日本古代史を科学する』(PHP新書)について、女史は以下のように批評している。文献上「親魏」という最上級の称号を受けた国は、一大文化圏であった大月氏(クシャーナ朝)と倭だけです。
流石と言いたいところだが、では何故に〝倭〟が「親魏」という最上級の称号を受けたのか、そのあたりの背景が女史には皆目分かっていないようだ。単に〝倭が文化大国〟だったという理由だけではないのであり、そのあたりは拙稿「青州で思ふ(3) 」で少し触れたので、関心のある読者は目を通していただけたらと思う。 その他、記紀 (『図解! 地図とあらすじでわかる古事記・日本書紀』)、拉致問題 (『The Invitation-Only Zone: The True Story of North Korea’s Abduction Project』)、集団的自衛権 (『集団的自衛権はなぜ違憲なのか (犀の教室) 』)等々、どれもこれも偏った書評になっているが、それは女史が既成概念に囚われているからだ。日本・東アジア古代史について、これだけ広範な知識を獲得していながら深みがなく、歴史に隠された闇が見えていないのも、女史の物の見方・考え方に根本的な原因がありそうだ。 冒頭に戻り、『日本人はどこから来たのか?』はDNAの最新研究成果を無視している、とする女史の批判について、今回は大分前書きが長くなってしまったので稿を改めることにしよう。
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