昨日の拙稿「太田出版」で約束したとおり、翻訳者Yさんが提供してくれた映画「野火」の情報を、今回は取り上げたい。最初に、以下はYさんの投稿から一部抜粋したものだ。
「野火」について: 大岡昇平氏による戦記小説で、その内容は虚構性が高いと言われています。私も若い頃読んだことがあり、日本兵が同胞の日本兵の死肉を食らうという表記には驚かされました。しかし、次のような、記事を掲載されている方がおり、果たしてそうしたことを本当にしたのが日本人だったのかについては、懐疑的になりました(当時、日本人であった朝鮮人か?)。 閲覧注意・支那人の食習慣: http://nezu621.blog7.fc2.com/blog-entry-2849.html
Yさんが紹介してくれた記事を書いたのは、「ねずさんの ひとりごと」というブログのオーナー、小名木善行氏という人物だ。同氏の思想的傾向については、同氏がリンクを張っているHPやブログ名を、一部以下に羅列しておくので、それで大凡が分かると思う。まぁ、亀さんとは思想的に対極にある人物だ。
日本会議岡山 田母神俊雄公式HP がんばれ産経新聞 桜井よし子ブログ 津川雅彦「遊び」ブログ
さて、翻訳者Yさんが紹介してくれた小名木氏の記事中に、ある意味で興味深い記述があったので紹介しておこう。
米軍が日本兵を捕虜にした際、日本本省人はガリガリにやせ細った栄養失調状態にあったが、軍属として参加していた朝鮮半島出身者たちは、栄養状態が極めて良好であったと記しています。 何を食べて栄養満点だったのかは、ご想像におまかせします。
ここで、小名木氏とは正反対のことを述べている本を、拙ブログで取り上げたことがある。それは拙稿「東京物語」で、以下に一部を再掲させていただく。
アメリカ兵から見たら想像もつかないお粗末な食事である。ところがそこに気づくまでに時間がかかった。彼らが考える動物性食材が何もないのに、日本兵は絶対に降伏せず、ねばり強く戦い続ける。その精神力、体力はどこから生まれるのか。 それは彼らにとっては一種の恐怖でもあった。長い時間をかけて調査の結果、それは穀物、根菜、野菜の日本食にあることにようやく気がついたのだ、 『黙ってられるか!』p.139~
『黙ってられるか!』(明窓出版)という本の筆者は、渡辺正次郎氏である。その渡辺氏と小名木氏の主張が、まったく噛み合っていないのがお分かりいただけると思う。どちらが正しいのかどうかの判断は読者にお任せするが、亀さんは渡辺正次郎氏の主張を断固として支持する。だからこそ、飯山一郎さんの乳酸菌運動にも心から賛同できるわけなのだ。
乳酸菌で思い出したが、大分前にNHKのクローズアップ現代が、「肉食のすすめ」なる放送をしていたのを思い出した。 高齢者こそ肉を?! ~見過ごされる高齢者の“栄養失調”~
へぇ~、そうなのぉ…(爆)
で、NHKの言っていることの真偽について判定を下す前に、もう少しお付き合い願いたい。というのは、大局的な観点から肉食について考察した本を、2冊ほど紹介したいからだ。2冊の本とは以下のとおり。
『肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見』(鯖田豊之 中公新書) 『食と文化の謎』(マーヴィン・ハリス 岩波書店)

鯖田豊之の本は大分昔読んだ記憶があるものの、残念ながら書架から見つからなかった。しかし、もう一冊の『食と文化の謎』はあった。見つからなかった鯖田豊之氏の本の書評は割愛するが、優れた良書だったと記憶しており、そのあたりはアマゾンのカスタマーレビューで確認していただきたい。
『食と文化の謎』の筆者マーヴィン・ハリス氏だが、以下の記述からも明らかなように、肉食文化に属すアメリカ人の文化人類学者である。
麦や米中心の食事は、肉中心の食事より、人間の本性にとって「自然」なものである、と主張する人は、文化にせよ自然にせよ、なにもわかっていない。 『食と文化の謎』o,45
自身が肉食の思想に染まっていることが、ハリス氏は分かっていないようで、以下のような極論すら書いている。
本当のことを言えば、人間自身の肉こそは、人間が食べられるもののなかでももっとも高品質の蛋白質をふくんでいる。 『食と文化の謎』o,29
ここで、食人(カニバリズム)について明確に定義しておこう。一応、『食と文化の謎』の定義を借りることにする。
ほかの食物が手に入るにもかかわにらず、人肉を食べることが社会的に是認されているばあいをいう。 『食と文化の謎』o,265
以上の定義に従えば、人肉しか食べるものがないという極限のケース、例えば戦争といった状況下での人肉食は、カニバリズムとは厳密に分けて考える必要がある。また、佐川一政が起こしたパリ人肉事件、こうした猟奇的な事件の人肉食も、例外扱いにするべきだ。
以上を念頭に、未だ観賞していない塚本晋也監督の「野火」、オンラインで取り寄せたので、時間が取れたら近日中に鑑賞、何か思うところがあったら、別の機会に同映画について取り上げたいと思う。
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