ここしばらく仕事(翻訳)に追われていたが、ここに来て漸く一息つくことができるようになった。そんな折、飯山一郎さんのHPで鬼塚英昭氏の訃報を知った。
「鬼塚英昭・絶筆」には流石に鬼気迫るものがあるが,鬼塚氏の「田中角栄攻撃」は立花隆氏の「正義感」の域を出ず…,日本の宰相を狙い撃ちにした国際的な謀略事件という視点・視座は一切全くない ◆2016/03/06(日)2 病院での急死は,みな不審だ!
その鬼塚英昭氏の遺作『田中角栄こそが対中売国者である』は成甲書房が出しており、偶然だが昨夜、やはり同社が出した『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』(若狭和朋著)を亀さんは読了している。同書の場合は飯山さんが推薦文を寄せており、「国際的な謀略事件という視点・視座」で書かれた本と評していた。実際に同書を一読した身として、まさにその通りだと思った。ともあれ、同書に書かれている一連の「国際的な謀略事件という視点・視座」については、読者自ら確認していただくとして、映画の観点で亀さんの簡単な書評を以下に書いておこう。

同書では2本の映画が登場している。最初に「あゝ野麦峠」。亀さんは小林多喜二の『蟹工船』が頭にあったこともあり、「あゝ野麦峠」に描かれている女工哀史は本当なのだろうと、漠然とながらも今までは思っていたのだ。ところが、若狭氏の『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』本には以下のように書かれており、亀さんは拙稿「満蒙開拓青少年義勇軍に学ぶ」で、映画「あゝ野麦峠」を賞賛しているだけに、穴があったら入りたい気持ちになったものだ。

私の住む岐阜を舞台にした山本茂実の『ああ野麦峠~ある製糸工女哀史」(1968年、朝日新聞社刊)というウソ小説がある。 飛騨の貧農の娘が製糸工場で酷使され、ふるさとを望む野麦峠で「ああ飛騨が見える」と呟やき息絶えるという「女工哀史」なのだが、一時はベストセラーになったのではなかったか。 ところが、実際は逆なのだ。教育を受けた娘でなければ諏訪の製糸工場は雇ってくれない。この時代、女性できちんとした教育を受けられるのは良家の子女に限られていた。飛騨では「女工哀史」の演劇公演はできなかった。祖母は貧農でも文盲でもないと子孫たちが激怒してボイコットさ。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.115
次に、映画「青い山脈」…。亀さんが見たのは今井正監督が1949年に制作した作品で、3年ほど前に鑑賞しているのだが、同映画を通して受けた印象を一言で言えば、「胡散臭さ」であった。もし、十代や二十代の頃に同映画を見たとしたら、青春を謳歌した明るい映画だなぁていどにしか思わなかっただろう。若狭氏は「青い山脈」について以下のように述べている。
「青い山脈」という映画(DVD)を君から観せられて、「敗戦万歳!」という日本人の声が聞こえたね。「日本計画」の実務責任者はGHQの民政局次長のケーディスだが、彼の先生がウィルソンの14カ条を作成したブランダイスだ。ルーズベルトもケーディス、ブランダイスも、そして民政局の幹部もほとんどがユダヤ人だった。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.155
同書を読み進めながら、若狭氏のGHQ観は矢部宏治氏が『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』で述べるGHQ観と重なっていると思った。そして、同時に脳裏に浮かんだのが、角田儒郎の一連の著作である。
『日本の宿痾 ─ 大東亜戦争敗因の研究』 『日本の残光 ─ 満洲建国と大東亜戦争の意義』 『日本の継戦 ─ 東京裁判を裁く』
3冊とも文明地政学協会で刊行したものだが、同書を世に送り出した功労者は稲村公望さんだ。角田さんと稲村さんは、世界戦略情報誌『みち』に寄稿していた、いわゆる同じ釜の飯を食った仲であり、それだけに『みち』に連載されていた角田氏の本を世に残そうという稲村さんの任侠心から、刊行に運びに至ったのである。亀さんも3冊すべてにわたり校正のお手伝いをさせていただいたこともあり、同書を通じて多くを教わった。だから、若狭氏の『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』も、抵抗感なく読めたのだと思う。
ただ、3冊とも高価な本なので、『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』に触発されて、角田さんのシリーズ本を読んでみたという読者がいたら、最寄りの図書館にリクエストを出すといい。
最後に、『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』で印象に残った行を幾つか羅列しておこう。
「南京大虐殺」を日本軍は犯したという。だが事実は、日本軍が南京城内を占領すると、逃げていた中国人たちは、「虐殺の行われていた」市内に戻ったのである。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.37
犯人はセルビアの民族主義者の青年だと諸書は書くが、偽史である。犯人はセルビア陸軍内の黒手組(ボルシェビキ)の青年将校である。日露戦争後の混乱のなかで、レーニンたちはセルビアの国王夫妻、閣僚たちを殺すクーデターを実行していたのである。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.76
『資本論』は資本家を守るための本だよ。皆が錯覚しているだけだ。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.136
BISというのは、第一次世界大戦後のドイツに対して苛酷な賠償を課した賠償委員会が母体だ。そして、FRBや日本銀行などの中央銀行の上部機関というわけだ。 『日本人よ、歴史戦争に勝利せよ』p.138
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