飯山一郎さんの「◆2014/01/02(木) 正月はテレビ見ないで読書に運動」という記事に目を通したところ、『ヴラジーミル・プーチン』(石郷岡建)という本について以下のような短い書評を書いていた。
元旦は『ヴラジーミル・プーチン』(石郷岡建)を精読した.今後の世界はプーチンの長期戦略どおりに変わる!これが読後感.

ピンと来るものがあったので取り寄せ、一気に読み終えた。読後感を一言で述べるとすれば、プーチンが辞任あるいは死亡しない限り、飯山さんの言うとおりになる可能性が極めて高いということだ。同書には沢山の書き込みや線を引いたが、特に立ち止まって思考を巡らせた行を中心に、解説を加える形で以下にメモとして残しておこう。
■スキタイ
「ロシア民族主義国家、単一エスニック(単一人種民族)国家建設の思想を流布しようとする試みは、わが数千年の歴史に反すると、私は確信している。それどころか、それはロシア民族およびロシア国家撲滅の最短距離の道を導くことになるだろう」p.38
これは、2012年1月にプーチンが『イズヴェスチヤ』紙に発表した論文、「ロシアの民族問題」からの引用だ。〝わが数千年の歴史〟という記述に注目していただきたい。この言葉の背景を理解するには、「世界の大動脈としてのスキタイ(アスカ)」について理解する必要がある。そのあたりを手っ取り早く把握するには、スキタイを念頭に以下のサイトの一読をお勧めしたい。スキタイの正体が分かれば、プーチンの〝わが数千年の歴史〟の意味も分かるはずだ。 栗本慎一郎の全世界史
■現実派のプーチン
プーチンによる、ソ連崩壊後の混乱収束と、社会の安定化に対して、国民の多くが支持した。プーチンは、自由、民主主義、人権などの西洋的価値観よりも、このユーラシア大陸の多民族国家においては、まず、何よりも国家の維持と社会の安定が必要と考え、人々はそれを受け入れたのである。もともと、この秩序と安定を望む生き方は、古くからロシア民族の伝統的な考え方でもあった。ロシア人の秩序・安定志向というのは、多分、チンギス・ハンのモンゴル帝国の襲来までさかのぼる、ユーラシア大陸で繰り広げられた、遊牧民族と農耕民族の死闘の歴史に由来すると思われる。p.62
基本的に筆者の石郷岡氏に同意するが、一点だけ反論を述べておきたい。それは、「チンギス・ハンのモンゴル帝国の襲来までさかのぼる」である。亀さんはわずか700年前ていどの話ではなく、プーチンが〝わが数千年の歴史〟と語るように、スキタイまでさかのぼらなければならないと考えている。
それはともかく、プーチンはリアリストであり、己れを生み育んでくれた祖国のため、そして同朋のために尽くす政事家だからこそ、人々がプーチンを受け入れていることがよく分かる行だ。
■時代の大転換期
「もっと深く長期的な意味では、現在の問題(世界金融危機)は、一時的な性格のものではないということだ。今日直面している問題は深刻なシステム危機であり、グローバルな体制転換の地殻学的な(変化の)プロセスである。新しい文化、経済、技術、地政学的な時代への移行であり、世界は乱気流の発生している地域へと突入している。そして、疑いもなく、この時期は長期間続き、痛みを伴うことになる」p.180
これは2012年1月、「イズヴェスチヤ」紙に載ったたプーチンの言葉である。リーマンショックを境に、英米型資本主義の構造的な欠陥が顕れたことをプーチンは語ってるのであり、それに伴い、とてつもなく大きな変動が地球全体に襲来しつつあるとプーチンは確信している。ただ、どのような新世界が出現するのかは誰も分からない現在、筆者の石郷岡氏は新世界の輪郭が見え始めるのは、「多分、21世紀後半」と述べている(p.181)。
■米国の凋落と中国の台頭
超大国への道を歩む中国の暴走や突出を抑え、世界の混乱や対立がロシアに波及することを防ぎたいと思っている。それが、多分、21世紀のロシアの最大の課題であり、最大の戦略となるはずである。そして、何度も書いているように、この戦略は一人では実現できない。多国間関係を通じて、パートナーを通じてのみ可能となる。
そして、ロシアのもっとも有力なパートナーになり得る国はどこか? その回答は、多分、日本で、日本はロシアの最も力強いなパートナーになりうる可能性を秘めている。というのがプーチンの結論ではないかと推測する。p.256
宮崎正弘氏が「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」というメルマガを精力的に発行しており、亀さんも同氏の語る中国事情に助けられている。そして、宮崎氏が述べているように、現在の中国は多くの問題を抱えていることは確かだろう。
では、中国はこのまま没落していくのだろうか。それに対して否と明確に答えているのがプーチンなのである。
プーチンは中国がアメリカを凌ぐ超大国になると睨んでおり、その中国と拮抗するための最良の手段が日本と組むことであると述べている点、亀さんも同感だ。ただ、今の安倍内閣にはそれだけの頭も肚も無い。では、他にプーチンの意を酌み、パートナーとなり得る政事家がいるかと問われれば、残念ながら今の日本にはいないとしか答えようがない。
それに加えて、今でも福島原発から毎日大量の放射性物質が、東北関東に巻き散らされており、拙稿「チェルノブイリ超え」にも書いたように、あと2年もすれば(福島原発から5年目を迎える2016年3月)、目に見えて心筋梗塞やガンを煩い亡くなっていく同朋が激増する。杜甫は「春望』」で「國破れて山河あり」と詠んだが、日本という国が破れるだけではなく、山紫水明の地であった日本の山河も放射性物質まみれとなり、我々は国も山河も失うのである。
では、どうするか? 飯山一郎さんの乳酸菌でじっと耐え、放射性物質にまみれた日本という国土で生き延びていく、あるいは日本を出て海外に移住する手もあろう。どのようにするかはさておき、「今後の世界はプーチンの長期戦略どおりに変わる」のだから、プーチンの肚を念頭に置きつつ、行動していくことが不可欠となろう。
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