亀さんが毎週楽しみにしているのが、日経系ウェブに載る「乗り移り人生相談」というコラムだ。中でも、3日前にアップされた213号、「人生を決めるのは運と縁とセンスだ」という記事には深い共鳴を覚えた。同コラムで島地勝彦氏は以下のように語っている。
世の中には努力や勤勉ではどうしようもないことがいくらでもある。ある日、ただ道を歩いているだけで、上から落ちてきた植木鉢が頭を直撃し、あの世に行ってしまうかもしれない。それは努力で防げるものじゃない。その一方で、信じられないような幸運に恵まれる人間というのもいる。上官のちょっとした気まぐれでアッツ島への派遣が取りやめになって玉砕を免れ、電車に飛び込むも全身打撲で一命を取りとめ、運転していた車が踏切内で電車に衝突するも奇跡的に生き残り、今では90歳を越えてなお女をヒーヒー言わせている俺の師匠など、まさに強運のカタマリだ。
なかでも、「運だけが人生を決める」と心底信じていたのが、今東光同様に亀さんが敬愛するシバレンこと柴田錬三郎だった。
シバレンさんも強運に恵まれて生き残った人であり、運だけが人生を決めるという考えだった。何しろ戦争中、南方に派遣される途中、乗っていた船が攻撃を受けてバシー海峡に投げ出され、7時間にわたって漂流するという経験をしているからね。
ようやく救助にやってきた日本の船も敵襲が怖いから、海に浮かぶ日本兵を金魚すくいのように、あっちでチョロ、こっちでチョロと掬ってそそくさと帰っていく。そこで助かるか助からないかを決めるのは、精神力でも生への執着心でもない。仲間が次々と「お母さん」と叫んで海に沈んでいく中、シバレンさんは何も考えず虚無になったと言っていた。そのシバレンさんが助かったのは単に運が良かったからとしか言いようがない。それだけの経験をすれば人生を決めるのは運であると考えるのは当然だろう。
亀さんも己れの人生を振り返ってみるに、幾度かあわやという場面に遭遇しているのに気付く。3年近く世界を放浪していた時を例に挙げれば、アメリカの深南部を旅してライフル銃を手にした老人に遭遇したり、よせばいいのにニューヨークのハーレムをブラブラして危険な体験をしたり、ヨセミテで山頂から真っ逆さまに落下しそうになったりといった体験をしている。なかでも、今思い出してもゾッとするのがニカラグアだ。
亀さんはマヤ文明ティカルの遺跡を訪れるため、パナマから飛行機でニカラグアの首都マナグアに飛んだ。到着した日はマナグアに一泊、翌朝はバスでマヤ遺跡で有名なティカルを目指して発ったのだが、その数日後の1972年12月23日、マナグアで巨大地震が発生、街の90%が崩壊、19,120人が亡くなったというニュースを、ニューヨークで実家からの手紙で知った。亀さんが19,120人の中に入っているのではと、たいそう心配していたという。
ところで、亀さんが高校生の時は二輪免許は自由に取れたし、オートバイを乗り回していたクラスメートも多かった。そのうちの一人は卒業寸前、バイクで踏切を渡ろうとしたところを電車に撥ねられ即死している。また、別の同窓生も国道299でオードバイを飛ばしすぎて転倒、やはり即死している。
思い出せば、亀さんも交通事故であわやという場面が幾度かあった。
小学校三年生の時、狭い路地から左右を確認せずに急に自転車で飛び出したため、目の前で大型ダンプカーが急ブレーキを掛け、ギリギリで停まってくれたことがある。運転手が顔を出して、拳を振り回して「馬鹿野郎」と叫んでいたのを思い出す。
高校生だった冬のある時、仲間と奥多摩へツーリングに行った時のことだ。その帰り道、トンネル内で氷に乗ってしまい転倒、直ぐ後ろを走っていた車が転倒したバイクの上に乗っかかるような形で急停車した。運良く、亀さんは反対車線に投げ出されたため助かった。尤も、もし反対車線から車が来ていたらアウトだったのだが…。
地元の悪友とサイパンに遊びに行った時もそうだった。連中とレンタカーで島内を観光した時のことだった。車が一台しか走れない道幅の狭い道路を亀さんが運転していたんだが、両側が背丈2メートルを超えるサトウキビ畑だったため、前方しか見えない…。そんな道をドライブしていた時だ。急に左右が開けたと思ったら、再び左右がサトウキビの〝壁〟の道に戻った…。

何が起きたかと言うと、前しか見えない道だったため、まさか広い道が交差しているとは夢にも思わず、アクセルを踏んだまま広い道を横断してしまったわけだ。もし、広い方の道を車が通過していたら、大事故になっていたところだった…。
手許に、東明社の吉田寅二社長からいただいた『運命の研究』(武市雄図馬著)という本がある。今までに幾度か紐解いたことがある本なのだが、未だに最後まで読み通したことはない。何時の日か、同書を最初のページから紐解きつつ、運命について熟考してみたいと思う亀さんであった。

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